作詞家のなかにし礼さんといえば、北原ミレイさんの「石狩挽歌(ばんか)」や北島三郎さんの「まつり」など昭和歌謡曲の大ヒットメーカーのお一人である▼
そのなかにしさんがこんなことを書いていらっしゃる。作詞した曲はだいたい三千。その中でヒットしたと言える曲は約三百。今もカラオケで歌われる曲は約百。残る二千七百曲は「むなしく埋もれてしまった」。人気作詞家のなかにしさんでさえ、この打率。いかにヒット曲をつくるのが難しいか、よく分かるだろう▼
若い人から何を今さらと笑われそうだが、そのアイドルグループの数字に驚く。発売したシングル五十二作品がヒットチャートの一位に輝いているという。二〇二〇年末でグループとしての活動を休止すると、発表した「嵐」の記録である▼
高い人気の分、活動を休止するとなれば、ファンの喪失感はいかばかりか。「キャンディーズ」の解散にうろたえた世代の一人だがあの女性トリオの活動期間は約六年。「嵐」は二十年である。ファンにとっては、なれ親しんだ時間の長さも別れをつらくするかもしれぬ▼
歌謡曲の全盛期と一概に比較できないが、なかにしさんによれば、大ヒットした曲というものはどこかで時代を映している。そうでなければ人の心に届かないという▼
平成という時代を映し、心に届けた五人といえるだろう。しまうには惜しい鏡である。