痛みを伴う病気は生活の質をひどく低下させるため患者さんの悩みも深く、病院を受診するきっかけとなることが多い。
伴随疼痛感的病症会大幅度降低患者生活质量,使得患者深受烦恼,这也是大多数患者前往医院接受检查的原因。
厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、外来を受診する患者さんの訴えの中で一番多いのが腰痛と肩こりであり、そのほかにも関節痛など痛みに関連する症状が上位にずらりと並ぶ。
根据厚生劳动省的国民生活基础调查显示,前往医院就诊患者陈述的症状中,数量最多的是腰痛及肩酸,除此之外,关节痛等与疼痛相关的诸多症状也排在前列。
痛みの原因となる病気には、関節リウマチ、椎間板ヘルニア、糖尿病による神経炎、痛風、がん、尿管結石などさまざまあるが、その多くは年齢とともにかかりやすくなり、また慢性化する。
造成疼痛的疾病多种多样,包括风湿性关节炎、椎间盘突出、糖尿病引起的神经炎、痛风、癌症、尿道结石等,其中大多数的发病率随年龄增加提高,同时向慢性病发展。
痛みがあると夜に眠れなくなる。特に慢性的な痛み(慢性疼痛:まんせいとうつう)のある患者さんでは半数以上が不眠に悩まされている。米国の民間調査会社ギャラップの報告によれば米国人の18%にあたる5600万人が何らかの痛みのために不眠に悩んでいるという。
疼痛使人夜不成寐。尤其是患有慢性疼痛的患者,半数以上为失眠而困扰。据美国民间调查公司Gallup的报告显示,美国人中有约18%,即5600万人正因某种疼痛导致失眠而烦恼。
残念ながら日本人での大規模な調査データはないが、高齢化が進んでいる分だけパーセンテージは高いかもしれない。例えば、日本国内には変形性関節症の患者さんが1000万人以上おり、その7割以上が不眠症状に悩んでいるとされている。これだけで700万人、日本人の約6%である。
遗憾的是,在日本人中尚未进行过大规模的调查,然而随着高龄化加剧,这一人群所占的百分比有可能相当高。举个例子,日本国内罹患变形性关节炎的患者超过1000万人,据说其中七成以上正饱受失眠折磨。仅此一项便有700万人,约占日本总人数的6%。
「痛いから眠れない」だけではなかった
并非仅仅“因为疼痛而无法入眠”
痛みと睡眠といえば、今から10年以上も前のことになるが、ある女性アナウンサーが自殺で亡くなったという悲しい出来事を思い出す。それが自殺の直接の原因であるか分からないものの、報道によれば彼女は出産後に慢性疼痛を伴う「繊維筋痛症(せんいきんつうしょう)」という病気を患い、育児も仕事もままならず悩んでいたとのことであった。ワイドショーなどでもずいぶん放映されたため、この耳慣れない病名をご記憶の読者もいるかもしれない。
说到疼痛与睡眠,笔者想到了十年前,某个女主播自杀身亡的悲剧。虽然这是不是自杀的直接原因尚不明确,但根据报道,该主持人在产后患上了伴有慢性疼痛症状的纤维性肌痛症,无法正常进行育儿及工作,使得当事人深受折磨。这个事件曾多次出现在情报类节目中报道,也许有读者记得这个耳生的病名。
線維筋痛症は中年女性で発症することの多い原因不明の病気で、後頭部(うなじ付近)、肩、背中、肘、腰、膝など全身に痛みが生じるのが特徴である。
纤维性肌痛症多发于中年女性群体,致病原因不明,其特征是后脑勺(颈部附近)、肩、背、手肘、腰、膝盖等处的全身性疼痛。
体を動かした時はもちろんのこと、軽く物が触れただけでも「キリで刺したような」「焼けるような」「万力で締め付けられるような」などと表現される激しい痛みが走る。私も何人か線維筋痛症の患者さんを担当したことがあるが、長期間にわたって痛みと闘う様子にこちらも心が痛んだ。
活动身体的时候自是不提,哪怕是轻轻触碰其他物体,都会产生“像被锥子扎到一样”、“像火烧一样”“像被老虎钳钳住一样”形容激烈的疼痛。笔者也诊治过几位罹患纤维性肌痛症的患者,看着她们长期与疼痛作斗争的样子,笔者也为之心痛。
線維筋痛症では、痛みの他にしびれや胃腸障害などさまざまな症状を伴うが、不眠がとりわけ多い。9割前後の患者さんが、寝つけない(入眠困難)、何度も目覚めてしまう(中途覚醒)、眠っても体が休まらない(熟眠困難)などの慢性的な不眠症状を訴える。件の女性アナウンサーも酷い不眠に悩まされていたようだ。
除了疼痛之外,纤维性肌痛症还伴有麻痹、胃肠障碍等各种症状、失眠症状尤其之多。约9成患者表示自己有慢性失眠症状,例如难以入睡(入睡困难)、夜间数次醒来(中途醒来)、即便睡下身体也得不到休息(深度睡眠困难)等。据说上文提到的女主持人也饱受严重失眠症的折磨。
確かに「痛みがあるから眠れない」だけだと単なる「原因と結果」になってしまうのだが、痛みと睡眠との間にはもう少し深い双方向的な関係がある。「眠れないことが逆に痛みを強くする」そして「眠れれば痛みが軽くなる」ことが最新の研究から明らかになってきたのである。
诚然,仅仅“因为疼痛睡不着”,就很容易理解并将此归结到单纯的“原因与结果”,但疼痛与睡眠之间还有更深层次的相互关系。根据最新研究,人们发现:“睡不着反过来会加重疼痛感”,以及“睡着会减轻疼痛感”。
日中の痛みの悪化は不眠症の診断基準のひとつ
白天疼痛恶化是失眠诊断标准之一
古くから医療者の経験として、眠りの質が悪いと痛みを強く感じることは知られていた。不眠症の診断基準でも、日中に出現する症状の一つとして「痛みの悪化」があるくらいである。健康な人でも一晩断眠(徹夜)したり、数晩にわたって睡眠不足をためると痛みを感じやすくなることが実験的に示されている。
从古时起,医生就得出经验,睡眠质量下降会增强疼痛感,这一点如今已成为共识。失眠的诊断标准中,白天显现的症状之一——“疼痛恶化”也包括在内。实验证明,即便是身体健康的人,一夜未睡(彻夜)或连续数晚睡眠不足的话,对疼痛的敏感度更高。
逆に、よく眠ることが疼痛の緩和に効果があることも広く知られている。残念ながら先の線維筋痛症には効果的な医薬品がなく治療に難渋することが多いのだが、睡眠薬や抗うつ薬などで不眠が改善すると疼痛も一緒に軽減することが多い。そのほかの慢性疼痛疾患の治療でも痛みの緩和だけではなく、睡眠の確保が大事であることは共通した認識となっている。
反过来说,良好的睡眠有助于缓和疼痛这一点也广为人知。遗憾的是,针对上文提出纤维性肌痛症尚未出现有效的医药品,治疗过程中存在愈多难题,但在使用安眠药及抗抑郁药等改善失眠症状的同时,疼痛也随之轻减的例子很多。在其他慢性疼痛患者的治疗过程中,除了缓和疼痛,保障睡眠相当重要这一点已经成为共识。
最近、睡眠が短くなると痛みが強くなることの関係についてハーバード大学の関連病院であるボストン小児病院とベス・イスラエル・メディカルセンターの研究者らが行った興味深い研究の成果が英国の権威ある医学誌「Nature Medicine」に報告された。
最近,就睡眠时间减少和疼痛加剧的关系,哈佛大学合作医院之一波士顿儿童医院与贝斯以色列医学中心的研究者进行了一场很有意思的研究,其成果发表在英国权威医学期刊《自然医学》上。
この研究が個人的にユニークだと思ったのは睡眠が疼痛に与える影響を純粋に評価するためにマウスの睡眠時間を「ストレスなしに」短くする方法を考案したことである。疼痛の研究なのにストレスなしが大事とは奇妙に思うかもしれないが、ストレス自体が疼痛に影響を及ぼしてしまうため、上記の断眠実験のようなストレスを巻き込む操作をできるだけ避けたのはこれまでありそうで無かった良いアイデアである。
从笔者个人角度来看,这份研究的独特之处在于,为了单纯验证睡眠对疼痛的影响,研究者设计了在“无压力情况下”减少小鼠睡眠时间的实验方案。在疼痛研究中,重视无压力这一实验因素听起来似乎很奇妙,但由于压力本身会给疼痛造成影响,如上文所述的不眠实验,尽量避免压力对实验造成影响,确实是至今尚未出现过的极好构想。
どうやってストレスなしにマウスの睡眠時間を短くしたかと言えば、マウスの睡眠時間帯にあたる明期(部屋を明るくする時間帯、12時間)に「楽しませて」眠らせなかったのである。マウスの脳波を計り続け、眠気が出てきたときに素早く手作りのオモチャや大好きな綿ボール(巣作りの道具)を与えて遊ばせるなどしたのだ。なんとも涙ぐましい工夫である。研究者のインタビュー記事を読んだが、ご本人達にとっても自慢のシステムらしい。
说到如何在无压力情况下减少小鼠睡眠时间,就是在小鼠的睡眠时间段中的明亮期(实验室中明亮的时间段,12小时)“让小鼠兴奋”,使其之后睡不着。测量小鼠的脑波,在小鼠出现困意的时候迅速给予手工玩具或特别喜欢的棉球(筑巢工具)让小鼠玩耍。研究者所花费的心思真是让人感动。根据研究者采访报道来看,这是连当事人都十分骄傲的实验设计。
このような繊細な実験の結果、12時間の睡眠時間帯のうち9時間以上も睡眠を削られたり、1日6時間だが5日間にわたって睡眠を削られたマウスでは、熱さ、冷たさ、圧迫、カプサイシン(唐辛子の辛み成分)などのさまざまな痛覚刺激に対して非常に敏感になることが分かった。
如此细致的实验结果如下,小鼠12小时睡眠时段被减去了9小时以上,1天睡眠时间被减少到6小时,如此持续五天后,研究者发现,小鼠对冷、热、压迫、辣椒素(辣椒产生刺激的成分)等各种痛觉刺激变得非常敏感。
専門家も全く想定していなかった新発見
专家们也完全没想到的新发现
興味深いのは短時間睡眠で生じた痛みには、イブプロフェンなどの通常の鎮痛剤は効果がなかったことである。このことは臨床的にも意義深い。不眠がある慢性疼痛の患者さんが効果の乏しい鎮痛剤を過剰に服用する危険性があるからだ。
让人非常在意的是,布洛芬等常用止痛药对于睡眠时间过短导致的疼痛无效。这个结果在临床上具有重大意义。若患有失眠症的慢性疼痛患者过量服用无效果的止痛药会产生危险。
短時間睡眠で生じた痛みに効果があったのは、意外にも一見鎮痛とは無縁なカフェインとモダフィニルであった。カフェインは脳内の催眠物質アデノシンの作用をブロックすることで眠気を抑える。モダフィニルもドーパミン系神経の活動を促進して覚醒効果を発揮する医薬品で過眠症の治療薬に用いられている。
对睡眠过短造成的疼痛唯一有效果的,居然是与止痛无关的咖啡因和莫达非尼。咖啡因可以阻断脑内催眠物质腺苷的作用,从而抑制睡意。莫达非尼也是通过促进多巴胺神经通路活动使人保持清醒的医药品,用于治疗嗜睡症。
作用機序の異なる二つの覚醒促進薬がともに疼痛効果を発揮したメカニズムは、どうやら「眠気の解消(覚醒度の上昇)」にあるらしい。睡眠不足や不眠によって覚醒度が低下すると痛みを感じやすくなり、そしてその疼痛過敏は眠気をとることで回復できる、と研究者らは主張している。睡眠不足で日中の痛みが増すことは知っていても、痛みの感受性に眠気が関連しているというのはその筋の専門家にとっても全く想定していなかった新発見で、権威ある医学誌に掲載されたのもむべなるかな。
这两种作用机制迥异的提神药物同时具有镇痛效果的机制,看起来是“消除睡意(提神)”。研究者认为:睡眠不足或失眠导致清醒度降低时,将增加生物对疼痛的敏感度,而高疼痛敏感度也可随着睡意出现回复至正常水平。虽然人们早已知道睡眠不足会造成白日疼痛增加,即便是相关领域专家也完全没有想到,疼痛的感受度与睡意有关,所以这一新发现刊登在权威医学期刊上也就不足为奇了。
眠気(覚醒度)と痛みの関係についてはヒトでの研究を含めてさらなる研究が必要だが、疼痛治療の際に睡眠が重要であることを体感している臨床医にとってはスッと受け入れやすい説である。
有关睡意(清醒度)与疼痛之间的关系,包括人体实验在内,尚待更多研究,然而,临床医生们早已亲身体会到睡眠在治疗疼痛时至关重要,这一学说马上就被他们接受了。
すでに、この論文を読んだある研究者はがん性疼痛の緩和に適度な午睡が役立たないか検討を始めたようだし、睡眠改善薬を用いた薬物療法の臨床試験の計画もあると聞く。製薬会社は新しい鎮痛剤の開発(治験)の際に睡眠状態を考慮に入れる必要があると考え始めている。拙速は困るが、今後も睡眠医学の側面から慢性疼痛の治療に役立つような知見が得られることを願ってやまない。
据说,看过这篇论文的研究者们已经开始探讨适度的午睡是否能够减轻癌症造成的疼痛,使用改善睡眠的药物的疗法也列入临床试验计划。制药公司也开始考虑,在开发新的镇痛剂(治験)时,有必要将睡眠状况考虑在内。虽说求快不求好也是个让人头疼的问题,但笔者此时只希望这些举措今后能从睡眠医学的侧面出发,为慢性疼痛的治疗提供有效的实践经验。
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